大学院生の日常

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新型コロナウイルスと男女差

 

 

2020年8月26日に世界で特に権威のある学術雑誌のひとつと評価されている「Nature」に1つの論文が掲載されました。

「Sex differences in immune responses that underlie COVID-19 disease outcomes」
(COVID-19患者の免疫応答には男女差がある)

この論文は米国エール大学医学部免疫生物学部門の岩崎明子らの研究グループが報告しています。
内容はとても興味深く、報告しているのが日本人ということもあり、読んでみようと思いました。

これまでにもCOVID-19患者の重症度と性差については報告があり、特に男性においては重症化しやすいと言われています(世界のCOVID-19による死亡例の約60%を男性が占めているとのこと)。しかしながら、その詳しい理由については明らかにされていませんでした。

今回の論文ではこの点について詳しく検討を行っています。

簡単に説明すると、今回行ったことはCOVID-19患者(合計98人、18歳以上で、平均年齢が男性61.9歳、女性64歳)における

  • ウイルス量
  • 特異的抗体価
  • 血球表現型
  • サイトカイン

についての男女差について検討しています。

結論から言いますと、ウイルス量や抗体価には差はありませんでした。
(抗体価:体の中に侵入してきた、ウイルスなどに対して対抗する物質の量や強さのこと)

しかしながら、女性患者のT細胞応答が男性患者よりも強力で持続的であることが明らかになりました。
(T細胞: 白血球の一部で、体内に侵入してくるウイルスを認識して排除する働きがある)

 

女性は男性よりもT細胞の反応が強い

 

反対に男性では女性よりもT細胞の反応が弱いため、これはCOVID-19に罹患すると重症化しやすい一因である可能性があると岩崎氏らは指摘しています。

そして男性の中でもT細胞の応答が低いは経過不良と相関することが報告されています。

また以前よりCOVID-19患者は、健常対照者と比較して、自然免疫性のサイトカインとケモカイン(炎症部位への免疫細胞の動員に関与するシグナル伝達分子)のレベルが高いことが明らかになっています
(自然免疫: ウイルスやバイ菌が体内に入ってきたときに倒そうとする最初の反応 )

今回、IL-8やIL-18などの炎症を起こす数種類のタンパク質(サイトカイン)は、男性患者の方が女性患者より高いことが明らかになりました。そして女性患者の場合、自然免疫性サイトカインレベルが高いと、COVID-19に対する応答性が悪くなりました。

 

男性は女性よりも炎症性サイトカインの量が多い

 

サイトカインには、感染初期の段階で体内に侵入した病原体から体を守るために炎症を起こす働きもあります。しかし、COVID-19の重症例ではサイトカインが過剰に産生され、免疫の暴走である「サイトカインストーム」と呼ばれる状態に陥ってしまうことがあります。

男性は感染初期にサイトカインの濃度が高くなりやすく、こうした深刻な状態に陥るリスクが高まると考えられています。ただ、女性でも感染初期にサイトカインの量が多い人は、重症化する頻度が高いと今回指摘されています。

 

つまり今回の研究で、男性と女性では感染初期の免疫反応に違いがあることが判明しました。

 

これらの結果は、男性患者にはT細胞応答を高める治療法が役立つ可能性がある一方で、女性患者には初期自然免疫応答を低下させる治療法が役立つ可能性があることを示唆しています。

この性差による免疫反応違いから、
「治療薬やワクチン投与に際して男女ともに同程度の効果を得るためには、性差に基づくアプローチが必要であることを示唆する」と言われています。

今回の報告を受けていろいろな意見がありますが、「個々の患者特性に合わせた治療法の確立が重要である」という意見が多かったと感じました。

私自身は今回の論文を読んで、性差や年齢差による免疫応答の違いは他の疾患でも必ず存在すると思いました。

一人ひとりが治療法をオーダーメイドする日も遠く無いのかもしれません。

 

ありがとうございます。拝