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オートファジーとたばこについて

今日はオートファジーとたばこについての論文について紹介します。

 
クロトンアルデヒドが誘発する内皮毒性におけるオートファジー

 

研究の背景として、クロトンアルデヒドはタバコの煙に含まれる非常に有毒な毒素であり、炎症と血管機能障害を引き起こします。

オートファジーは、血管疾患の病因に重要な役割を果たすことが報告されていますが、血管疾患の発症におけるクロトンアルデヒドの暴露がどのようなメカニズムで作用するかは不明のままです。

そこでこの研究では、たばこの煙の主要成分であるクロトンアルデヒドが、ヒト内皮細胞のオートファジーと細胞死の誘導とその基礎となる分子メカニズムに及ぼす影響を調査することを目的としています。

 

いくつか実験を行っているので、それぞれ簡単に紹介します。

1つ目:クロトンアルデヒドによる内皮細胞の細胞死とオートファジーの誘導について

・a ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells:HUVEC)が異なる濃度のクロトンアルデヒドに2時間さらされた場合、細胞生存率は用量依存的に減少した。

 

・b Live / Deadアッセイの結果、高い濃度のクロトンアルデヒドで処理した細胞群において赤色蛍光が増加しており、細胞死の大幅な増加を誘発していることが示された。

 

・c ウエスタンブロッティングにてオートファジーの活性マーカーであるLC3A-Ⅱを検出しており、高い濃度のクロトンアルデヒドで処理した細胞群において有意に増加した。

※LC3A-Ⅰ+PE:Phosphatidylethanolamine=LC3A-Ⅱ⇒オートファゴソームに結合(正の相関関係)

 

2つ目:LC3A-Ⅱの増加が本当にオートファジーの増加を示しているかを検討

オートファゴソームの数とLC3A-Ⅱの増加は相関しているが、これらの増加は必ずしもオートファジーの増加を示すわけではなく、リソソームの阻害などのオートファジー後半ステップのブロックを示している可能性もある。

※オートファゴソームからオートリソソームになると内膜のLC3A-Ⅱは分解され、外膜のLC3A-ⅡはAtg4によってPEが切断されLC3-Ⅰにもどる

 

・a クロトンアルデヒドで処理する1h前に100μMのBafA1で処理した群ではLC3A-Ⅱが大幅に増加していた。

※BafA1:リソソームプロテアーゼ阻害剤⇒オートファジーの阻害に働く

 

これらのデータよりクロトンアルデヒドはオートファジーフラックス(オートファジーによる単位時間あたりの分解量)を障害しておらず、内皮細胞のオートファジーを誘発したことを示しています。

 

・b クロトンアルデヒドの細胞毒性におけるオートファジーの役割を調べるために、BafA1の存在下で細胞生存率アッセイを行った。

⇒クロトンアルデヒド(150μM)による細胞の処理は、細胞生存率を約60%に低下させたが、クロトンアルデヒドとバフィロマイシンA1の併用処理は、細胞生存率の低下を有意に阻害した。

 

この結果は、オートファジーが内皮細胞のクロトンアルデヒドによる誘発死に寄与したことを示しています。

 

3つ目:オートファジーの他の指標マーカーであるp62およびベクリン1の発現に対するクロトンアルデヒドの影響

※p62:オートファジーの流動を評価

オートファジーが阻害されると蓄積、誘導されると減少。

※ベクリン1:オートファゴソームの生合成に関与する重要なオートファジーマーカー

オートファジーが誘導されると増加する。

(哺乳類のオートファジーの主要なレギュレーターとして機能します)

 

LC3A-Ⅱ、ベクリン1は容量依存的に増加しており、p62は容量依存的に減少していることから、クロトンアルデヒドが内皮細胞のオートファジーを増強し、細胞死を促進することを示唆しています。

 

4つ目:クロトンアルデヒド誘発オートファジーにおけるAMPKおよびp38 MAPKの関与

AMPKMAPKはこれまでにオートファジーと関連することが報告されています。したがって、クロトンアルデヒドがオートファジーに関連してキナーゼの活性化を引き起こすかどうかを調査しています。実際、クロトンアルデヒド処理により、AMPKおよびp38 MAPKの活性化が増強されました。

 

5つ目:クロトンアルデヒドが誘発するオートファジーおよび細胞死に対するAMPKおよびp38 MAPK経路の影響

クロトンアルデヒド誘発オートファジーにおけるAMPKおよびp38 MAPKの役割を調べるために、特定のAMPK阻害剤であるCompound Cおよびp38 MAPK特異的阻害剤SB203580をクロトンアルデヒドで処理する1時間前に前処理した(Compound C :100nM 1h、SB203580:10μM 1h)。

その結果、Compound CおよびSB230580は、LC3A-IIレベルのクロトンアルデヒド誘導性の増加を大幅に減衰させました。

このことから、クロトンアルデヒド曝露によって誘導されたオートファジー媒介細胞死の調節にAMPKおよびp38 MAPK経路が関与していることが示唆されました。

 

・AMPKの活性化は間接的にmTOR複合体1を不活性化させオートファジーを誘導する

・MAPKの活性化は間接的にmTOR複合体1を活性化させオートファジーを抑制する

 

要約すると、タバコの煙の主要成分であるクロトンアルデヒドへの曝露は、AMPK / p38 MAPKシグナル伝達経路に関連するヒト初代内皮細胞のオートファジー媒介細胞死を促進し、オートファジーおよび関連キナーゼの阻害がこの細胞毒性を部分的に防止したことを実証しました 。 この調査結果は、クロトンアルデヒドの職業的曝露による急性血管損傷を理解する上で重要となるとのことです。

 

オートファジーは身体にとって無くてはならない大事な仕組みです。しかし、その働きも過剰に働いてしまえば、悪影響を及ぼしてしまうという事ですね。

【過ぎたるは猶及ばざるが如し】ですね。